自動車や飛行機といった大型の輸送機器から、紙やフィルム、プラスチック、さらに日頃からよく口にする菓子類や冷凍食品まで、私たちの身の回りは実に様々なものであふれ返っている。そして、それらのすべては日々技術者たちのたゆまぬ努力によって進化を遂げている。もっと品質のいい製品を、もっと迅速に、もっと正確に。そのゴールのない進化の歴史は、ものづくりに携わるすべての人たちの誇りと情熱によって支えられている。

伊藤忠マシンテクノスもまた商社という立場からその最先端の製造開発をサポートしている。営業と技術、それぞれの協働から生まれるソリューションこそが、伊藤忠マシンテクノスの強みだ。お客様の高度な要望に応えるべく世界を奔走する彼らの、挑戦のドラマを追った。

ものづくりにミスは許されない。だからこそ、常に全力を傾ける。

世界の優良メーカーの中から選りすぐりの工作機械を輸入・販売する国際工機本部。2006年入社のS・Tはその一員として、約5年間に渡ってある業界のお客様を担当している。そのうちの一社が、A社だ。A社では、近年、工場設備の更新に迫られていた。課題にあがったのが、接合装置の選定だ。S・TにA社の担当者から相談が持ちかけられた。機械そのものの単価も高額で、これまでの取引実績も長い。絶対に落としてはいけない勝負だ。S・Tは、まずお客様の要望をまとめた。

「まず前提として最重視されるのが、品質です。ものづくりにおいて、過失は万が一でも許されない。その厳しい審査の目に耐えうるだけの品質を備えた機械でなければいけません。その上で、どれだけサイクルタイムを短縮化し、生産性を上げられるか。数十年に渡って使い続けられるだけの耐久性があるか。様々な観点から評価がくだされます」

業界の先頭をいく全自動化による新たな生産体制の構築。

相手は第一線で活躍する生産技術のプロフェッショナル。部材のこと、補強材のこと、仕様や設計のこと。微に入り細に穿つ要求に、S・Tは真剣に耳を傾けた。何度も入念に打ち合わせを重ね、細かい仕様を取りまとめた。

「そこで僕が選んだのが、ある欧州メーカーの接合装置です。最大のポイントは、全自動化。今までずっと手動で行われていた接合作業のフルオートメーション化を僕はお客様に提案しました」

全自動化のメリットは、第一に人為的なミスを防げること。人の手による作業はどれだけ細心の注意を払っても品質に差が出る。しかし、機械であれば過失や過誤の発生を限りなく抑えることができる。安全と品質を重んじるA社においては、何よりの利点だ。また、生産性向上と人員の適正配置による人件費の最適化も期待できる。手動が主流の当該業界において、だからこそ、競合に先鞭をつける上でも価値があった。

「これまでも当社ではお客様の機械設備を何度となく納入してきました。そして、そのどれもが長く安定して使っていただけている。商談では、機械の性能はもちろんのこと、そうした実績と信頼を武器に、競合との差別化を図りました」

厳しいコスト競争を越えて。寄せられた期待の一言。

だが、S・Tの営業戦略の前に大きな壁が立ちはだかった。

「お客様が最も懸念を示したのは、予算です。最新鋭の機械だからこそ莫大な費用がかかる。いかに購入コストを下げられるか。それが勝敗の分かれ目となりました」

S・Tは欧州のメーカーに直接交渉を行った。だが、事態はそう簡単には進捗しなかった。ネックになったのは為替の動きだ。どれだけメーカーからの仕入れ値を下げても、円安の状況下ではコストが膨らんでしまう。商社の仕事は、こうした為替の影響をダイレクトに受けるのが特徴だ。だからこそ、S・Tはもちろん商社パーソンはみな為替の動きに常に敏感にアンテナを張っていなければならない。

初めてお客様に相談を持ちかけられた日から約1年半。長い時間をかけ、綿密に交渉を重ねてきた結果がようやく実を結んだ。A社は接合装置の購入先を、伊藤忠マシンテクノスに選定。受注金額にして数億円にものぼるビッグビジネスとなった。

お客様とメーカーの間に立って調整を進める。それが技術の役割。

一方、前線に立つ営業をバックアップしたのが、技術部のTだ。

こうした大規模な工作機械は受注から納入までに相当の期間を要する。実際にお客様の工場に据付するにあたり、要求される品質を実現するために様々な調整業務が必要なってくるからだ。

「ただ機械を組み立てて終わりじゃない。お客様の仕様に合わせて機械をつくりこんでいく。このプロセスこそが、僕たち技術部の最大の見せ場なんです」

様々な立場の関係者が複雑に関わり合うビッグプロジェクトだからこそ、大事なのはコミュニケーションだ。

「とにかく営業のS・Tさんとは、緊密に情報共有を行いました。今回は特にメーカーが海外だったので、言葉の壁も含めてやりとりが複雑化しがち。だからこそ、小さなことでも細かく連絡し合って、お互いに抜けや漏れがないか確認し合いました」

お客様と欧州メーカーの間に立って最終仕様を決定していく。いわば、技術はその橋渡しとなる役割だ。2012年に中途入社したTにとって、こうしたプロジェクトを自らが先頭に立ってマネジメントしていく経験は、大きな財産となった。

「全自動接合装置という、業界でもまだほとんど浸透していない事例。そんな最先端の技術に関われたことは、自分自身の成長になりました。それに、こんなにも深くお客様やメーカーと折衝ができたのも、今までになかったこと。入社2年目で大きなチャンスを任せてもらえたことに、感謝と責任の気持ちでいっぱいです」

一人ひとりの挑戦が、この国のものづくりを支えている。

受注から納入までには1年もの歳月がかかると言う。簡単に成果の出る世界ではない。だからこそ、心身ともにタフでいなければ商社の仕事は務まらない。だが一方で、商社の技術者ではなければ得られない充実感が、今、Tの胸を満たしている。

「世界を舞台に、これだけ大きなフィールドで挑戦できるのは商社だからこそ。まだ入社して2年目で、見えていないところもたくさんありますが、だからこそ今までよりもずっと成長したいという気持ちが沸々と湧いてくるんです」

プロジェクトの最前線に立ち、難局から一転、ビッグビジネスを勝ち取ったS・T。そして、技術者としての強みを発揮し、プロジェクトをゴールへと導くT。機械商社の仕事は、生活者にとってなかなかイメージしにくいものかもしれない。だが、実際には自分の周りをぐるりと見渡してみるだけでも、あちらこちらで伊藤忠マシンテクノスが関わることによって生まれた製品がたくさん転がっている。

製造業のトータルソリューションプロバイダーとして、日本のものづくりを支える。それが、伊藤忠マシンテクノスの存在意義なのだ。